「先輩」になる皆さんへ

比嘉俊次

2016年04月02日 12:16

4月、新年度
各企業にも新人さんが入って来たと思います

優しくする、厳しくする、いろいろあると思いますが、ちゃんと育てて下さいね

覚えている方も多いと思いますが、私、新人の頃はビックリするぐらい下手でした

入社2年目になってもヘタなままで、ある日、ラジオのニュースを読んだ後、会社に電話がかかってきました
定年間近の上司が電話を取ったんですが、そのやり取りを横で聞いていて、「ニュース読むのがヘタなアナウンサーは変えろ!」という内容の電話であることはすぐに分かりました

「はい、すみません。しっかり練習させます」
「少しづつ上達はしているんですが・・・」
「もちろん本人にも伝えて自覚させます。申し訳ありませんでした」

受話器を持ってペコペコと頭を下げつづける報道部の大先輩。で、逃げたいけど、逃げるわけにもいかず、なんでここにいたのか後悔しながら立っているしかないオレ、みたいな超気まずいシーンが5分近く続いたかな・・・そして、ちょっと空気が変わってきた

「あなたに言われなくても、ちゃんと鍛えますから」
あ、先輩???ちょっと口調が荒くなってきたような・・・
「だから、こっちでちゃんと責任もって育てますって言ってるでしょ」
「聞いてたらわかるでしょ、少しずつですけどね、ちゃんと上達してますよ」
みたいなこと言って、最後には
「アナウンサーに向いているか、向いてないかは、こっちがちゃんと見極めますから、心配しないで下さい」
と言って、ガチャン!・・・受話器を投げつけるように電話を切った

ゴタゴタの原因が自分だから超気まずいのと、キレ気味の先輩が怖いので何言っていいか分からないけど、とりあえず
「すみません、オレのあれですよね・・・」と謝ったら
「お前には関係ない!お前は練習してればいいんだよ」と怒鳴られたし
で、「今日は飲みに行くから、仕事終わったら来い」と。酒飲みながら岸本や新屋敷と言った沖縄の放送史に名を残すRBCの先輩アナウンサーの失敗談を聞かせ、「みんな若い時はヘタだった」みたいな話をしてくれたけど・・・大先輩に気を使わせてしまっているのが、正直、逆にツラかった


昔の人情ドラマ見たいでしょ?20年近く前の話だからね。でもね、こんな人は放送局でも滅多にいないよ
理論的な意見やアドバイスができないのは仕方ないとしても、大多数は「あいつはヘタ」とか「視聴率が悪いのは・・・」とかそんな程度ことしか言えない
「面白さ」や「分かりやすさ」ってみんな言うけど、その正体を理解し、実現でき、さらに説明できる人=プロデューサー(作る人・育てる人)って、いつの時代も、どこの局でも貴重な存在、局の制作力を決める最重要要素なんです

ともかく、この件があってから私は心を入れ替えました

というのも実は私、もともとアナウンサー志望ではなく、そもそもアナウンス試験すら受けていません
東京で働きたくて、東京支社がある会社(RBC)に入ったのに、たまたま人事の都合でアナウンス室に配属されたので、「オレの希望を聞いてくれないから会社が悪い」とという「逃げ」があった

けど、この日から「やるしかないか」と覚悟が決まった
・・・まあホントのこと言うと、覚悟が決まるまで、まだ少しいろいろあったんですけどね

その後もヘマするたびに直属の上司に「異動させてくれ」と訴えていたけど、ある日とうとうキレて「いいかげんにしろ!黙って3年働け」と怒鳴られたし
(で、アナウンサーが黙って働けるかよ!と内心逆ギレする程度の人間なんだよねオレって)

あと、「いい加減、数字(視聴率)とってくれないと、営業も編成も困るんだけど。どうするつもり?」と先輩ディレクターに真顔で結果責任について質問されたのもオトナの怖い話・・・

アナウンサーってなかなか大変でしょ?どこの局でもこんな感じみたいよ
落ち込んで気晴らしに酒飲んでいても見知らぬ人にカラまれてバカにされたりしてさ
本当にヘタだったから何も言い返せないし。会社の中でも外でも常に評価にさらされて逃げ場ナシ
(何も言われない≒知られてない、ってのが実は最もツラいんですが)

で、私は記者も兼務してるので取材先でまた怒られるしのトホホ生活・・・
就職超氷河期じゃなければ、実家にお金があれば、会社辞めてたね。苦しかった。辞めたくてしょうがなかった

だけど、そんなこんなでアナウンサー続けられているし、取材先で「君は何もしらんなぁ」と言った人はいろいろ教えてくれるし
まあ、アナウンスの技術は今も全然二流だけど、現場行ってウラの話も教えてもらっているからニュースの意味を伝える力はハッキリと沖縄で一番だと自信があります

今思えばオレはつくづく運がいい。特に人に恵まれているとしか言いようがない
だからオレは続けれてられるんだよな・・・

それからハッキリ言ってくれる人との関係って長く続くよね
視聴率取るように言ったディレクターは、取り方の具体例を知っていたから真顔で問いかけてきたんです。そんな人なら信頼できるよね
電話の先輩は10年前に亡くなっちゃいましたけどね

しかし、教えてもらわなきゃいけない事って、次から次へと出てくるもんですね・・・取材が縁でつながった人だけじゃなく、OTVの先輩にもいまだに教えてもらっちゃってるし、しかもビールと食事をご馳走になったりしながら!ツイてます(笑)

話が長くなりましたが、つまり方法はいろいろあるとは思うけど「新人はちゃんと育てて下さい」という話

それから、最後にこれはしっかり言っておかねば・・・
あの時会社にクレームの電話した方、先輩が怒鳴っちゃってホントごめんなさい。悪いのは私です

あと、私は東京勤務の夢をまだあきらめていませんから

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