嫌いにはなれない

比嘉俊次

2011年05月27日 08:00

更新が遅れて申し訳ない

 The NEWS Special5月号も終わったので、今日は久しぶりに仕事の話を・・・

 TVでニュースを読んでいる人が「あちこち取材に出る人」かどうかを見分けるポイントがある。よく取材に出歩く人は、あまり人を断罪しない。というか、できない

 例えばTBS系では筑紫哲也さんが代表格だった。筑紫さんは事件や事象について批判的なコメントをするときでも大上段に構えて、人を上から断罪するというのは珍しかった。わかりやすく言うと人格を否定するようなことは滅多に無かった

 これは「人権を守る」ということも、当然頭の中にはあったと思うけど、いろいろ自分から出かけていって見て聞いて見ると、世の中に「とんでもない人」と思われている人にも、事情というかそこに至る背景があることを見てしまっているからだと思う。立場は違えども、というか…

 話が回りくどくなって恐縮だけど、何が言いたいかというと
「ゴーヤー発言問題」で職を追われることになったアメリカ国務省のケビン・メア元日本部長。私はこの人が嫌いじゃない(もちろん好きというわけでもないですよ。念のため)・・・率直に言って感心する部分もある、と言ったら多くの人が意外に思うかもしれない

 まず例の「沖縄の人は怠惰でゴーヤーの栽培でも他府県に負けている」と発言したとされる問題。本当に言ったかどうか、双方の意見が食い違い、真実は確認できていない。しかし、メアさんを知る多くの沖縄の人間は「言いそうなことだ」と思ったに違いない。慎重に言葉を選び、計算する人なので、そんな直接的な言い方こそしなかったが、辺野古への新基地建設に反対する沖縄に対する苛立ち、現在の日米関係はアメリカにとって「グットディール(いい取引)」という考え方を沖縄でも彼は隠さなかった。そりゃそうだ、彼の主張はアメリカの国益を実現する外交官として恥ずかしいものではない。強調しておくけどアメリカの国益、ね

 正直、メアさんの発言にはムッとさせられる事が度々あった。が、彼の働きぶりには感心した。日本語が堪能なだけでなく、かりゆしウェアやみんさー織りのネクタイ、沖縄の言葉やことわざ等を取り込み、県内の各層とのパイプを大切にし、離島にも何度か足を運んでいる・・・つまり東京から沖縄に来る多くの官僚よりも遥かに沖縄に浸透していた。だから、彼の見立てはかなり正確で日本政府の二枚舌はいずれ沖縄県民の怒りを買い、普天埋設問題をこじらせてしまうことを自民党政権時代から危惧していたが、まさにその通りとなった

 つまりメアさんは優秀な外交官だった。アメリカの。彼はアメリカの国益を実現すべく沖縄に乗り込んで、情報を収集して分析し、表に裏に交渉を行い、必要なら顔を赤らめてプレッシャーもかけた。本当に職務に忠実によく働いたと思う。細身でトーンの高い日本語ながら時に迫力も感じさせた。あちこちで姿を見かけたし、訪れた痕跡があった。着任1年内外で彼は沖縄に浸透した
 しかし、彼が心配したとおり、彼がおそらくキャリアをかけて打ち込んだであろう普天間基地の移設計画が行き詰まりを見せると(成功すれば大金星だったであろうだけに)苛立ちを隠せなくなり、冷静さを欠く発言も目立つようにもなった。それと、彼が一つ分析を誤ったのは「普天間基地の県外移設」が一部の県民ではなく、多くの県民が真剣に望んでいるという事だ。分析を誤ったのではなく、認めたくなかっただけかもしれない

 一方でメアさんは意図的に間違った情報を発信しているのではないかと思われるときもある。彼ほどの勉強家が沖縄がゴーヤーの生産量日本一(仮に1位じゃなくても県土・耕地面積を考えればありえないことではない)というのを知らなかったとは思えない。また普天間基地周辺には琉球八社の普天間神宮があり古くから集落があったことを(建設中の海軍病院前では古い集落の調査が行われていた)知っていたはずで「普天間基地の周りに勝手に沖縄の人たちが集まってきた」という自身の主張が間違っていることも十分承知だったと思う。しかし、こうした情報に検証もなしに乗っかってくる人がいることを計算に入れて沖縄と他府県との間に溝を作ろうとしたのではないか。相手陣営の分断は交渉の基本。まんまと乗せられている方が問題なんですよね…

 ともかく交渉になるとアメリカの「パワー」を隠そうともしないメアさんの態度は記者でありながら見ていてイライラしてしまうこともあったが、同時にアメリカの本音が高等弁務官なみにわかりやすく、そして「こんなタフな人がこっち側にいて交渉できたら、日米地位協定も平等なものになるのにな・・・」とも思ってしまう。祖国のために尽力・・・。それに対して「ウィキリークスによると」という断りがつくが(これについても日米両政府とも確認しない)アメリカ側に裏でアドバイスをしていたという日本の交渉担当者・・・

 最後に。メアさんとは取材の場以外で、プライベートでも何度か話す機会があったが、アメリカ総領事館とつながりのある30人ほどで彼の小さな送別パーティ(立食)を企画した時も、ちゃんとかりゆしウェアで参加してくれた。そのとき、私は沖縄ソバをすすっていた(箸もフツーに使える)メアさんにこう声をかけた。「メアさん。思い通りに事(普天間基地の移設)が進まず、事件・事故への抗議への対応が続いたりで、大変でしたね(彼は沖縄とアメリカの経済交流も拡大したいと考え、実際にアドバイスもくれたが基地問題に忙殺され結局かなわなかった)。ただ、勘違いしないでほしいのは、ウチナーンチュは事件や基地被害はNOだけど、アメリカ人は好きなんですよ。キャンベルスープも大好きだし(笑)」と。するとメアさんは、小刻みにうなづきながら口をへの字に曲げて含み笑いをして「はい、知ってます。沖縄の人、イチャリバチョーデーね。アメリカ人好きです。沖縄で嫌われているアメリカ人は私だけ」と言って、今度は肩をすくめて見せた。私は思わず声を上げて笑い、そしてうなづき、あやうく「そうですね」といいかけたが、それは踏みとどまった。酒の席のアメリカンジョークとはいえ、外交官に失礼だし、なによりいつもは冷たくまたは高圧的なことが多い、あの目が寂しそうに見えたから(不思議なことに彼の眼は客観的に見ると全くのブルーだが、彼を知る人に「何色だっけ?」と聞くと「ブルー?グレーだっけ?」という感じになる事が多い)

 沖縄から見ると手ごわい、イヤな交渉者だが、本国から遠く離れた場所で与えられた職務に忠実だった・・・と思うと「メアさんねぇ・・・好きにはなれないけど・・・」という感じですかね。しかしアメリカの総領事はタイプは違えど、だれも沖縄に食い込んでくるよ。人材豊富でメアさんが辞めても、厳しい交渉は続きそうです。押し切られない交渉者がこちら側に現れてくれることを期待しましょう

 
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